相続税と贈与税 知って得する税金対策とは?

相続税と贈与税 知って得する税金対策とは?

 自分の子供や孫のために、少しでも多くの資産を残したいと考えている人は、まず何から始めたら良いのだろうか。2015年1月から、相続税の基礎控除が縮小されたり、教育資金や住宅購入資金に関わる贈与税の非課税制度が拡充されたりと、税制がめまぐるしく変わる今、まずはその制度内容をしっかり理解することが大切である。今回は、私たちができる様々な税金対策をご紹介しよう。

■相続税とは

 まずは、相続税について復習しよう。相続とは、ある人が死亡したとき、その死亡した人「被相続人」の財産をその親族「相続人」に受け継がせることである。この被相続人が所有していた財産に課されるのが相続税。相続税の対象となるのは、金融資産や不動産に加え、金額の見積もりが可能な特許権や営業権も含まれる。さらに、被相続人の死亡を理由に相続人に支払われる保険金や退職金などは、被相続人が生前から持っていた財産ではないが、「みなし相続財産」として、相続財産に含めなければならない。

■相続税の改正と計算方法

 2015年1月から相続税の基礎控除が縮小された。基礎控除の計算式は以下の通りである。
2015年1月以前(改正前)
基礎控除額 5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
2015年1月以降(改正後)
基礎控除額 3,000万円+600万円×法定相続人の数

 例えば、夫が亡くなり、妻と子供2人の計3人が相続人として財産を受け継ぐ場合を考えてみよう。夫が家族に残した相続財産は、全部で1億円分だったとする。課税遺産総額は、この相続財産総額1億円から、基礎控除額を引いた金額となる。今までは、相続財産の総額が8000万円以下なら相続税はかからないが、2015年1月1日以降は4800万円を超えると相続税がかかるようになった。

2015年1月以前(改正前)
基礎控除額  8,000万円 <5,000万円+1,000万円×3>
課税遺産総額 2,000万円 <1億円−8,000万円>

2015年1月以降(改正後)
基礎控除額  4,800万円 <3,000万円+600万円×3>
課税遺産総額 5,200万円 <1億円−4,800万円>

■節税対策

 相続税が大幅に引き上げられたからこそ、しっかりとした事前の相続税対策が必要となる。今回は、資産を賢く次世代に渡す方法を3つご紹介しよう。

1、生前贈与

 まずは、生前贈与を活用する方法である。財産を自分の名義で持ち続けると、自分が死んだ時には当然ながら全て相続税の課税対象になってしまう。生前に手放せるものは、子供や孫に生前贈与して、財産を減らしておこう。贈与税は確かに高いが、住宅取得や子供の教育費などお金がかかる現役世代へ贈与に関しては、活用できる特例が増えている。贈与税の種類とその特例を見てみよう。

暦年課税
 暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額が、基礎控除額の110万円を超える場合に、その超える部分に対してかかる税金である。もらった財産の合計額が110万円以下の場合には、贈与税はかからない。この暦年課税を上手に利用すると、例えば、祖父が孫3人に対して、毎年それぞれの孫名義の銀行口座に110万円ずつ振込むことで、理論上20年間で合計6,600万円の財産を非課税で渡すことができる。ただし、20年間にわたって毎年110万円ずつ贈与を受けることが事前に約束されている場合には、「20年間にわたり毎年110万円ずつの給付を受ける権利」の贈与を受けたものとして、結局は総額に対する贈与税がかかってしまう場合もある。

相続時精算課税
 相続時精算課税とは、贈与を受けた時に一定税率で贈与税を納付し、贈与者が亡くなったときに相続税で精算する方法である。この制度を利用する場合、65歳以上の直系尊属から、20歳以上の直系卑属への贈与が、1人当たり2,500万円まで非課税となる。しかし相続時精算課税は、基本的に課税の繰延制度である。相続時精算課税を適用すると、生前に多額の贈与を受けても非課税になるメリットがあるが、最終的には贈与額が全て相続税として扱われるため、実質的な節税対策にはならない。さらに一度相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻ることができないので、制度を利用する際には慎重に検討する必要がある。

住宅取得資金にかかる贈与税の非課税制度
 2015年度の税制改正大綱の内容のうち、特に注目すべきなのは、住宅取得資金にかかる贈与税の非課税制度の拡充である。これは、住宅取得の費用について、親から資金を援助してもらった場合、2015年は最大で1,500万円まで、贈与税が非課税となる制度である。この制度は、使い道が問われない暦年贈与と合わせて利用することができ、合計すると最大1610万円(1,500万円+110万円)まで贈与税がゼロとなる。日本において、子供がマンションや一戸建てなど住宅を購入する時に、頭金を親からの援助してもらうケースや、親子二世帯住宅に増築する際の資金を親世代が援助するケースは多い。2015年は、省エネルギー性、耐震性、バリアフリー性の高い良質な住宅の非課税枠は1,500万円まで、そうでない住宅の場合は1,000万円まで非課税となっている。2016年以降、良質な住宅は最大1,200万円まで、そうでない住宅は700万円までと、非課税枠が縮小される予定なので、資金援助を受ける時期について注意が必要だ。住宅取得等資金にかかる贈与税の非課税制度は、資金を賢く子供に渡すことができる有効な手段であると言える。

教育資金にかかる贈与税の非課税制度
 住宅資金同様、制度の拡充が行われたのが、教育資金にかかる贈与税の非課税制度だ。この制度を利用することで最大1,500万円までは非課税で、両親や祖父母から子供へ教育資金を贈与することができる。子供1人あたりの教育資金は、私立の場合、幼稚園から大学卒業までに2,000万円以上が必要と言われているが、非課税で贈与することができる1,500万円は、子供や孫世代に有効に使ってもらうことができる。当初この制度は2015年末で終了予定だったが、2019年まで期間が延長された。制度の適用を受けるためには、1万円上の場合、毎回領収書をとっておき金融機関に領収書を提出が必要となるなど、手続き上不便な点もあるが、上手に利用すれば有効な相続税対策となるだろう。

夫婦間贈与の特例による非課税制度
 これは、婚姻期間が20年以上の配偶者との間で、自分の住む不動産や、その購入資金の贈与があったときは、贈与税について最高2,000万円までの配偶者控除が受けられる制度である。暦年贈与と併せて適用できるため、実際は2,110万円まで控除が受けられる。自分が住むための居住用不動産か、居住用不動産を取得するための金銭であることなどの条件があるため、別荘は適用外となる。また、住宅の広さ(床面積)制限や贈与を受ける人の所得制限などに要件はない。

 上記で説明した生前贈与を活用する際には、税務署に生前贈与であることをはっきりと示す証拠や根拠を用意しておくことである。それぞれの制度を適用するのに必要な要件を確認し、賢く利用していただきたい。

2、生命保険による節税

 次に、生命保険による相続税対策についてご紹介しよう。被相続人が死亡したことにより支払われる死亡保険金は、「みなし相続財産」として相続税が課税されるが、この生命保険の受取り金には、相続税の非課税枠が設けられている。非課税金額は以下のとおり。

生命保険の非課税金額 500万円×相続人の数

 例えば、夫と妻、子供3人がいる家庭において、夫が死亡した場合、生命保険の非課税金額は2,000万円(500万円×4)となる。この非課税枠を利用するためには、契約者と被保険者は夫、保険金の受取人は妻と子供に設定しておく必要がある。契約者、被保険者、保険金受取人の設定方法によって、相続税ではなく、所得税と贈与税として扱われてしまうケースもあるので、事前に必ず確認が必要だ。生命保険金は保険の請求手続き後速やかに支払われるので、残された家族の生活資金や納税資金にすぐに活用してもらうことが可能である。

3、不動産による節税

 不動産でも相続税対策が可能である。不動産の値段は、売買取引時価や公示価格、路線価、固定資産税評価額などいくつもの価格が存在するが、相続税や贈与税では、土地は「路線価」で、建物は「固定資産税評価額」で評価される。ちなみに、路線価の定めがない地域は、倍率方式により評価される。路線価は、不動産の取得価格の基準となって公示価格の8割程度、固定資産税評価額は、公示価格の7割程度とされているので、不動産として相続することで財産評価額を少なくし、相続税を減らすことができるのだ。例えば、現金1億円を相続した場合、財産評価額は当然1億円である。一方、売買取引時価1億円の土地の場合、土地は路線価で評価されるため、売買取引時価の約70%~80%となり、財産評価額は約7000~8000万となるのだ。現金よりも土地で持っているほうが財産評価額は安くなり、相続税が安くする効果が期待できる。

■財産の分け方で注意が必要な不動産

 複数の相続人が存在する場合は、不動産はどのように管理・分割したら良いのだろうか。まずは、死亡した被相続人が残した土地や建物を複数の相続人が共同で管理する方法である。しかし、例えば相続人である子供が死亡し、その子供の子供、つまり当初の被相続人の孫が相続した場合、ひとつの土地や建物を3世代にわたって複数人で管理するのは面倒で、将来的に誰か1人がまとめて管理する方が効率的である場合が多い。次に、「分筆」を行い、1区画の土地を複数の部分に分ける方法である。これにより、土地を相続人それぞれに分割して管理することが可能であるが、土地が小さい場合や、その土地に建物があり分割が難しい場合には適していない。最後に、代償分割である。これは、相続人の1人が不動産を自分のものとして相続し、他の相続人に対しては、代わりに本来もらうべきであった土地や建物に相当する金銭を渡すというものである。代償分割によって、ひとつの用途に限定された不動産をバラバラに分ける必要がなくなるが、不動産を相続する者は、現金を用意しなければいけない点に注意が必要だ。

■相続税の申告方法とスケジュール

 相続税の申告について、その方法とスケジュールを確認しておこう。相続で取得した財産や相続時精算課税の適用を受ける財産の合計額が、基礎控除額以下のときは、相続税の申告も納税も必要ない。しかし、配偶者控除など各種の税額控除や小規模宅地等の評価減の特例は、相続税がゼロのときでも申告する必要がある。相続税は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に申告しなければいけない。期限内に申告しなかったときは無申告加算税が課せられるので注意が必要だ。申告日までに、戸籍謄本など必要書類を集め、税理士や銀行の担当者と遺産分割協議内容の打ち合わせを行い、相続人全員の合意、相続税申告書の作成等を行う必要がある。申告する先は、相続人の住所地ではなく被相続人の死亡時の住所地の所轄税務署へ。金銭で一括納付するのが原則だが、一定の条件のもとに延納または物納が認められている。

■相続には時効がある?

相続税の納付は必要ないと考え、申告を行っていなかった人は、被相続人が亡くなってから5年間が経過すると、相続税を申告と納付をしなくてもよいという時効制度が存在する。しかし、あくまで相続税の申告が必要ないと信じきっていた人に限るので、悪意を持ち、わざと相続税の申告も支払いもしなかった場合は、通常の相続税の金額の40%にあたる重加算税が課され、この場合の時効は7年間とされている。

■税理士の選び方

 最後に、相続手続きをお願いすべき税理士の選び方をご紹介しよう。税理士に相談すると、相続税が節税できる、手続きを迅速に行うことができるなどのメリットがある。まずは、相続手続きの取り扱い件数が多い、知識と経験がある税理士事務所を選ぶのが絶対である。また、税理士の報酬が高すぎないことも確認しておこう。さらに、相続人同士がもめた時に、様々な事例を提示し、制度をわかりやすく説明してくれる税理士を見つけたい。すべての相続人と公平に接し、特定の人へ相続が優位になるように進めてしまうような人は避けるべきである。相続手続きに慣れている一般人はほとんどいないので、知り合いから紹介してもらうなどして、信頼できる税理士を探すことが大切である。

 以上のように、様々な制度や税制を知り、事前に相続税対策をしっかり行うことで、子供や孫にスムーズに資産を残すことができる。これを機に、計画的な相続制対策を始めてみてはいかがだろうか。